土曜コラム「今週後半のニュース」第48回:マニフェストを見る時に私たちが注意すべきこと

 今週の後半も多くのニュースにコメントをしましたが、今回は次のニュースを改めて取りあげたいと思います。

間引き運転に批判続出 再燃する小池知事の「満員電車ゼロ公約」

 このニュースについて、私は次のようにコメントをしました。

 マニフェストとの整合性は、在任中常に問われる。軌道修正をするのは、十分な説明と有権者の理解が前提になる。

 マニフェストは、選挙で立候補者が有権者に示す政権公約のことです。有権者は、各立候補者のマニフェストを比較し、自分たちの望むことを最も実現してくれそうな人に投票します。したがって、当選者は有権者の期待を最も多く集めた人になります。国の場合は政党がマニフェストを示すことが多いですが、都道府県や市町村は首長への立候補者が示す形になります。

 マニフェストは選挙で当選するためのものと言えますが、重要なのは当選者した後です。有権者に約束したことを実行しているかどうかが問われます。十分に実行していると有権者に認められれば次の選挙で再選される可能性が高まりますし、逆に実行が不十分なら落選のリスクとなります。さらに、マニフェストに反することや書かれていないことを実行している場合には、任期の途中でもリコールなどで解職させられる可能性もあります。マニフェストは、当選後の活動を有権者が適切に評価できるものでなければなりません。

 今回の記事は、小池都知事のマニフェストに掲げられた「満員電車ゼロ」という公約が達成されていないことを改めて取りあげたものです。この問題は、いくつかあると思います。

 まず、「ゼロ」という公約の実現可能性です。都内の満員電車に乗っていると、これが現実的にゼロになるとは思わないでしょう。有権者が「ゼロ」を本気で求めているとは思えません。

 また、ゼロという目標は「実現します」と約束しているのではなく、「目指します」となっています。言葉通りに受け取れば、実現までは約束していないとも言えるわけです。理想に向けて少しずつ前進する、ということであれば「めざしました!」と主張することも可能です。

 ここまで述べると、何だか私がマニフェストを擁護しているように受け止められるかもしれません。しかし、もう1つ述べたいことがあります。それは、「ゼロを目指す」項目が7つもある、ということです。それは、以下の7つです。
①待機児童ゼロ
②介護離職ゼロ
③残業ゼロ
④都道電柱ゼロ
⑤満員電車ゼロ
⑥多摩格差ゼロ
⑦ペット殺処分ゼロ

 このうち、実現したのは⑦だけのようですが、挙げられているもので実現しそうなものは見当たりません。つまり、「ゼロ」はスローガンと考えて良いのではないでしょうか。
マニフェストは、本当は有権者の投票の際には判断材料となり、選挙後には検証対象となるものです。その意味で、この「ゼロ」はマニフェストの要件をみたしていないと言えるかもしれません。

 もちろん、それで選挙に問題があるとは言えず、有権者もさまざまな要素を吟味して投票していると思います。しかし、最も重要なのは政策と実績でしょう。任期中の実績は必ず公約からの検証を受けます。記事にあるような理解が多くの有権者に共通するものならば、十分な説明をして理解を得る必要があると思います。

 マニフェストは任期中の約束ではありますが、途中で修正することも十分な説明をして理解を得られれば必ずしも約束違反にはならないと考えます。想定外の社会情勢の変化があればマニフェストにこだわることが有害な場合もあるでしょうし、最終的には有権者の判断と投票行動に委ねられるからです。

 今は新型コロナの対応で大変なことと思いますが、より良いマニフェストのために立候補者と有権者それぞれ「どのようなマニフェストが適切か」を考えていかなければならないと思います。

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