書籍紹介:円城寺雄介『県庁そろそろクビですか?「はみだし公務員」の挑戦』小学館新書

 タイトルには強いインパクトがあるが、本質的には1人の県庁職員(著者)が公務員としてどのように成長してきたかをテーマに実話を描いたのが本書である。タイトルは、むしろ2つの意味で誤解を招くので、あまり気にする必要はないと思う。

 著者が大きな成果をあげたのは、全国で初めて救急車両にipadを導入したことである。急病人が一刻を争う事態の中で「たらい回し(何度も病院に受け入れを断られること)」を防ぐことができる。

 本書で描かれている公務員の仕事として興味深いのは、次の3点である。
 第1に、現場主義の大切さである。筆者は入庁して用地買収の担当となった。予想外の配置で、もちろん未経験。先輩からの指導や制度の勉強で次第に力を付けてくるが、土地を購入する決め手は所有者からの信頼だという。所有者が大切にしてきた土地を現場に行って実際に見る、所有者の話に耳を傾ける、これを何度も繰り返して、初めて気持ちよく購入することができる。他の分野でも必要な、あるべき公務員の姿勢だと思う。

 第2に、政府間の役割分担とタテ割り行政の実態が伝わってくること。救急サービスは、救急車が駆けつけてから病院に連絡し、受け入れ可能を確認して搬送するまでの一連の流れである。ただし、もちろんそれで終わるのではなく、最終的には急病人が無事であることが求められる。市町村・都道府県・国がそれぞれ役割があるだけでなく、その内部でも複数の部署が関係する。一連の流れを円滑に進めるには、これらの複雑な関係の中で連携・協力が不可欠である。当たり前のことのようだが、それぞれが固有の事情を抱える中では、とても難しいことで、時間も要する。著者は、その壁に挑み、何度も跳ね返されながら最後には成果に結びつけた。

 第3に、出来ることから進めていくことの大切さが分かること。1つ1つの政策には目的があるが、幅広い分野に及ぶものや時間を要するものが多い。政府間の役割分担やタテ割り行政の中で、担当の職員が幅広い分野に関わることは難しい。また、定期的に配置転換があるため(2~5年が多い)、目的達成まで見届けることも難しい。降任の職員がどこまで自分の思いを引き継いでくれるかは分からない。こうした事情から、政策の大きな目的を置き去りにせざるを得ず、目的が矮小化され、近視眼的になってしまうのだ。制度が変わらない限り根本的な解決は不可能かもしれないが、大きな目的の中で政策を捉え、どのようなステップで目的に近づいていくのかを想定し、日頃から意識して仕事を進める必要がある。

 このように、本書は著者の経験から公務員の仕事の実態とあるべき姿が伝わってくる。ただし、最初に述べたように、タイトルに関しては誤解を招く点があると思う。2点述べたい。

 まず、著者は決してはみ出そうとしているわけではない、ということ。公務員としてルールや前例は、批判されても守るべき領域がある(守りすぎの面はあるかもしれないが)。タイトルから想像つかないが、著者もこの点を強調している。

 次に、そもそも公務員は、はみ出してクビになることはないこと。身分保障があるからだ。もちろん、最初から分かっていて大きな損失を与えてしまった場合や、公務員の信頼を落とすような行為(横領・飲酒運転など)は別だ。しかし、著者も述べているように、住民の命を守るための行為で、決して独りで暴走することなく粘り強く周囲の理解を得て行ったことが、大きな成果をあげたのである。身分保障がなかったとしても、クビになることはないと思う。

 タイトルには少し注意した方が良いと思うが、公務員をめざす人には仕事の実態とあるべき姿が伝わってくる本として、新しいことに取り組もうとしている人には仕事の励みになる本として、本書を勧めたい。

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