公務員の仕事:長期的視点を持つことの難しさ

 世の中にはさまざまな政策が溢れているが、いずれも何らかの課題克服が目的としてある。ただし、その目的もさまざまであり、時間軸でみると目の前の課題を解決する短期的な視点の政策もあれば、かなり先の課題を見据えた長期的な視点の政策もある。どちらが難しい課題かと言えば、間違いなく後者である。したがって、政策も長期的視点を持つことは難しい。以下、その理由を公務員特有の事情も交えて整理しておきたい。

 長期的な視点の政策を具体的に挙げれば、地球環境問題への対応や持続可能な社会保障制度の構築、公共施設の整備、学校教育などである。いずれも数十年単位の取り組みが必要である。2030年とは2050年を見据えていたり、「100年安心」などと謳われていたりする。

 長期的な視点の政策が難しい第1の理由は、政策の効果が目的と直結しづらいからである。学校教育の目的が立派な社会人になることであるとすれば、社会人になった時に自分の状況がどこまで学校教育と関係しているかが不透明である。学校教育だけでなく、家庭の環境や友人との出会いなども関係してくるであろう。そうした中で学校教育がどのような目的を設定すればよいのかは容易でない。結局、テストの点数や身体能力のスコアなどにするしかない。

 第2の理由は、情勢の変化である。私が義務教育を受けていた頃は、コンピュータなどは学校に存在しなかった。もちろん先生も使っていなかった。しかし、今やパソコンは社会人にとって必携であり、スマートフォンを仕事に使う機会も増えている。これらの使い方は、社会人になって仕事をしながら覚えるしかない。今の子供たちは、まだ見たことのない道具を社会人になってから使う可能性がある。不確実な将来を見据えて政策を企画立案することは、不可能とさえ言える。

 第3の理由は、公務員の定期異動である。公務員は3〜5年の単位で部署の異動を繰り返していく。全く経験のない分野に配属された場合、仕事を覚えるだけでも1年〜2年かかる。何か新しいことをやろうとしても、すぐに別の部署に異動するため、政策の成果を最後まで見届けることができない。また、後任のことを考えると、思い切ったことがなかなかできない。結局、長期的な視点の政策を進める場合でも、同じことの繰り返しになりがちとなる。

 第4の理由は、トップの交代である。国の場合は首相や国務大臣、地方の場合は知事や市長などがトップとなるが、国民の支持率や政局、選挙の結果などによって継続あるいは交代する。もちろん長期政権となる場合もあるが、それが最初から保障されているわけではなく、節目ごとに支持を獲得し続けなければならない。そうすると、トップは長期的な目的よりも目の前の成果を優先しがちとなる。

 第5の理由は、税金と財政の性質である。いずれも、毎年度独立した運営が求められる。それぞれの年度ごとに納税者へ課税し、国民にサービスを提供するのが原則である。公共施設は整備してから長期にわたって利用されるので、建設公債を発行して借金の返済という形で将来世代にも負担を求める。しかし、こうした仕組みが確立されている分野は限られており、多くの政策が単年度のサービスと負担に矮小化されやすい。

 このように、長期的な視点の政策は、政策そのものが持つ特性とそれを立案・実行する体制の特性の両面から、特有の難しさを持っている。個人的には、地方創生や地球環境問題など国や世界全体の大きな課題に、上記の事情が強く関係しているように思われる。しかし、こうした問題こそ優先的に解決しなければいけない時代が訪れている。公務員の異動や財政のあり方などに長期的な視点を導入するとともに、トップが交代しても短期的な視野に収束しないような仕組みの導入やトップ・有権者の認識が求められる。

 複数年度予算や専門職の設置、長期ビジョンと実行計画の同時設定など、すでに具体化されている部分もある。問題の先送りをして手遅れにならないようにしなければならない。

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