木曜コラム「公務員の仕事」第4回-税務部門:確定申告の受付
2月の初旬から確定申告の受け付けが始まる。申告は税務署に行くものと思われているが、実は市役所でも受け付けている。市民にとって行きやすいのは税務署よりも市役所なので、市役所に申告に来る人も結構多い。ただし、自営業の方などで必要経費の算定をはじめ税理士が入って専門的に計算を行うような申告には対応できない。市役所は、給料を受け取るサラリーマンの方や、年金を受け取る高齢者の方の受付が中心である。
確定申告の書類を自分で書ける人はそれほど多くないので、話を聞いたり資料を見ながら申告書を一緒に書いていくことになる。なかには、領収証などをどっさり持ってきて「さあ書いてください」という人もいたので、「書き方は説明しますので自分で書いてくださいね」と説明していた。それでも、市民1人につき平均30分くらいはかかっていたと記憶している。
税金を進んで払いたい人は少ない。だから、どうすれば税金が安くなるか(節税の方法)を自分で調べたり人から聞いたりして、確認を求められることも多い。制度を正確に知っている人には、こちらも説明しやすい。しかし、勘違いをしている人もいて、説明に苦慮したこともある。代表的なものは、医療費の控除である。
多額の医療費がかかった場合、税金が控除される。しかし、それは税金が返ってくるということで、医療費そのものが戻ってくるわけではない。例えば多くの病院に通っている高齢者が、領収書の束を持ってきて「払ったお金が戻ってくると聞いた」と言われるが、年金で生活している方はほとんど税金がかかっていない。だから、医療費が高くでも、払っている税金が少なければ戻ってくるものも少ない。このことを説明して、何度も落胆されたことがあった。
1年間の所得の金額と控除の金額を計算すると、税額が出てくる。その金額を伝えた時に、やはり高いとびっくりされるし、安かった時は喜ばれる。別に私が金額を操作してるわけではなく、聞いたことをそのまま数字にして計算しただけであるが、税額は事前にある程度予想されているので、結果とのギャップに一喜一憂しているのだと思う。税金が思ったよりも高かった時は「もっと安くできないのか」と聞かれることもある。その時は、他に控除できるものがないか聞いて、あるようなら資料を持ってきてくださいと伝える。資料が自宅にあれば、一旦引き取ってもらい、改めて来てもらう。
確定申告では、こうした濃密なコミュニケーションを市民の方々ととる。税金の計算は嬉しいとは言えないが、世間話も聞いたりするので、職員と市民で大いに話が盛り上がるようなこともあった。確定申告の場なのに、笑顔で市民を返す職員はまさしくプロフェッショナルだと感じた。
なお、私は仕事で確定申告に関わったが、そのおかげで今でも確定申告は自分でできる。今はオンラインで申告書を作成することができるようになったので負担も少ないのだが、やはり仕組みが分かっていると大いに楽だし、節税のツボも分かるので、この仕事に関わって良かったと思っている。