火曜コラム「オススメ書籍」第9回:諸富徹編著「入門 地域付加価値創造分析-再生可能エネルギーが促す地域経済循環」日本評論社

 政策を企画立案する際には「費用対効果が重要」とよく言われるが、あらゆる政策分野に共通する測定手法が確立されているわけではない。具体的な数字が示されるのが「経済波及効果」だが、これを市町村単位で測定することは困難で、また最新のデータを使って計算できないことも多い。

 そこで、本書は「地域付加価値創造分析」という手法を提示し、理論の枠組みと具体例を紹介したものである。経済波及効果の測定では産業連関表を用いるのに対して、地域付加価値創造分析はバリュ・チェーン分析に基づくという。経済活動によって生み出された付加価値が経営者・労働者(被雇用者)・政府(徴税者)の3者に分配され、このうち分析対象となる特定の地域に帰属するものを示すのが、地域付加価値である。産業連関分析を用いる経済波及効果と比べて控えめになるという。それは、波及効果(間接一次効果、間接二次減価償却費)が含まれていないからである。ただし、実際に地域が得る経済的な便益により近いのが地域付加価値創造分析である。

 この手法を用いて、具体的には再生可能エネルギーの導入によって創造された地域付加価値の測定を行っている。風力発電(鳥取県北栄町)、小水力発電(岡山県西粟倉村)、木質バイオマスCHPと熱供給(北海道下川町)、地熱発電などが対象になっている。再生可能エネルギーの特徴によって地域付加価値の大きさも異なる結果となった。それらの違いをもたらすものは、初期投資の段階と事業運営の段階で、いかに地域内での調達や分配が行われるかによる。もちろん、可能な限り地域外に漏れない方が地域付加価値も高くなるのだが、機器や設備・燃料の調達方法、設置や運営が地域内で対応できる状況かどうかによって異なる。エネルギーごとに特性が異なる点にも注意しなければならないだろう。

 再生可能エネルギーに着目しているのは、生活に必要なエネルギー支出が域外に流出してきたこと、固定価格買い取り制度によって事業性が期待できること、地域におけるエネルギーの供給を通じて自治の推進が図られることなどである。そこで、本書の後半ではエネルギー自治の展開や地域金融の果たす役割、住民の対応など、多様な視点から論考が行われている。単に経済的側面だけに着目するのではなく、エネルギーを通じた自治の進展にまで展望していることは、エネルギーが地域において幅広い意義を有していることを示している。

 本書は再生可能エネルギーに焦点を当てているが、他の分野に応用することもできるだろう。農業や製造業などでも計算することはできるのではないか。ただし、本書は単に地域付加価値創造だけを追求しているのではなく、自治の進展も視野に入れていることを忘れてはならない。むしろ、自治の基盤があってこそ、地域付加価値創造も大きくなる、と捉えることもできるかもしれない。

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