土曜コラム「今週のニュース」第22回:観光における移動の意味が見直される?

 今週も多くのニュースにコメントをしましたが、今回は次のニュースを改めて取りあげたいと思います。

恐竜博物館-福井駅ど迫力の直通バス 10月31日から運行、車内でAR体験も

 このニュースについて、私は次のようにコメントをしました。

 バスでのAR体験は入館前からワクワクさせてくれる。移動手段を超えるプレミア感あり。

 これまで何度か紹介してきましたように、私は福井県の出身で、この恐竜博物館にも何度か足を運んでいます。恐竜博物館は日本どころか世界でも有数の博物館とも言えるほどの立派な施設です。また、以前の勤め先であった福井県立大学にも恐竜学研究所という機関があり、アカデミックな研究も積極的に進められています。そうした意味で、今回のニュースは私の地元が誇る施設の素晴らしい取り組みを紹介できるので、とてもワクワクしています 。

 この記事では、福井駅と恐竜博物館の直通のなかでAR体験ができることを取りあげています。恐竜博物館へのアクセスは、必ずしも良くありません。福井駅からバスで1時間近くかかります。えちぜん鉄道という電車もありますが、やはり最寄りの駅からバスに乗る必要があります。そのため、多くの観光客は自動車で恐竜博物館を訪れます。ただし、周辺には恐竜関連の観光施設が多くないので、恐竜博物館に訪れる 家族連れの多くは周辺の施設に立ち寄ることなく、自家用車で別の目的地へ向かいます。そのため、域内での滞在時間が必ずしも長くない、という点が課題になっています。

 今回の記事で紹介されている内容は、地域内での滞在時間を長くするものではありませんが、アクセスの課題を逆手に取った興味深い 取り組みと言えます。恐竜博物館に向かうバスのなかでは、車窓を見るか家族で話す、本を読むくらいしか時間を過ごす手段が なかったところに、AR体験を取り入れることで、すでにバスのなかで恐竜博物館を訪れたかのような体験ができるようになるのです。もちろんARは博物館そのものではありませんが、それがかえって博物館という本物へのワクワク感を高めるのではないかと考えます。

 話は少し変わりますが、新型コロナの影響で不要不急の外出がしばらく抑制されました。最近こそGo To トラベルキャンペーンなどで人出が戻りつつありますが、観光のあり方も大きく変わろうとしています。それは、オンラインツアーの普及です。オンラインツアーは実際に観光地には行きませんが、画面を通じて観光地を訪れたかのような体験を得る新しいスタイルの観光です。現地の食事なども事前に送られてくるものもあるので、オンラインながら可能な限りリアルに近づける工夫が凝らされています。確かに実際の観光と比べて臨場感は劣るかもしれませんが、移動が不要なので金銭・体力の両面で小さな負担で済みますし、長期休暇等を取る必要も減るので、今後はこうした観光を好む人が増えてくるのではないかと思います。実際に行くことへのワクワク感もかえって強まるかもしれません。

 このような状況を考えると、観光における移動が意味を問い直されるのではないかと思います。つまり、オンライン観光が普及すると移動ができるだけ少ないことが好まれるようになるため、リアルの観光が価値を持つためには移動の負担を減らすため移動環境のなかにも観光の要素をできるだけ加えていく必要があるのではないか、ということです。

 恐竜博物館への移動バスにAR体験が組み込まれたことに、そこまでのビジョンがあるわけではないかもしれませんが、長い目で見るとリアルな観光のあり方に一石を投じる取り組みになるのではないか、とも考えています。こうした取り組みが今後さらに広がっていくことに期待したいと思います。

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