火曜コラム「オススメ書籍」第33回:マンスキー「データ分析と意思決定理論-不確実な世界で政策の未来を予測する」ダイヤモンド社

 EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策形成)が求められ、また新型コロナ関連でも「GoToトラベルが感染拡大を招いたというエビデンスは存在しない」などと言われるように、エビデンス、端的に言えばデータ分析による事実の解明と科学的な意思決定が注目されています。

 しかし、私の研究分野でもデータ分析は行われているものの、結果は必ずしも一様ではありません。しかも、相反するような内容がデータ分析から示されることもあるので、エビデンスとはいえ取り扱いにも気をつけなければいけないと感じていたところ、本書に出合いました。

 本書では、分析結果には強い仮定の下で導かれているものがあり、これで因果関係が分かったとは言えない、ということをまず述べています。そして、信頼できる仮定だけによって、一定の範囲で因果効果を示す「部分識別」を提起しました。

 確かに、複雑な要素が絡んでいる事象を明確に分析するには、強い仮定を入れてシンプルな結果にすることが必要です。また、その方が伝えるメッセージも明確になり、政策も分かりやすいでしょう。しかし、それで真実が歪められてしまうとすれば、エビデンスどころではありません。明確かつシンプルでなくても、正しい範囲にある政策を実施することの方が有益なことは間違いありません。

 続いて、そのようなデータ分析のうえで行う意思決定として、マキシミン基準とミニマックス・リグレット基準を提起しています。前者は「いちばんましな行動を選択する」ということで、後者は「いちばん後悔が少ない選択をする」ということです。最善の基準などなく、これら複数の意思決定基準が妥当であることを認識すべき、とも述べています。

 現在のコロナ対応については、エビデンス以前に分からないこともたくさんあります。その中で意思決定をしなければならず、しかも政治家は結果がすべてということもあって、重圧も大きいのではないでしょうか。しかし、結果も重要でしょうが、どのような情報に基づいて、どのような理念で意思決定をしたのかの方が重要かもしれません。

 私の恩師は「経済学は医学のようなもの」と教えてくれました。分からなかったことが少しずつ分かってきて、処方が進化していく、ということです。データ分析もまた、新たな分析方法の登場によって現実が少しずつ分かってきて、対策が進化していくのだと思います。

 「結果さえ出せば良い」とは国民も決して思っていないはずです。この本の原著は2013年に書かれたもので、年数は経過していますが、新型コロナウイルスが蔓延しているタイミングにふさわしい本ではないかと思います。

 最後に、著者のマンスキー教授の名前を見て、「もしかしたら?」と思ったことが当たっていました。彼は、ナチス・ドイツの迫害を逃れたユダヤ人難民だったのです。なぜ私がそう思ったのかというと、私の故郷である福井県敦賀市は、リトアニア国副領事の杉原千畝氏が国の指示に反して発行した「命のビザ」によってユダヤ人難民が日本に逃れて最初に降り立った港で、「人道の港」と呼ばれているからです。人道の港に関するドキュメンタリー番組なども制作され、マンスキー氏という名前が出てきたことを覚えていました(著者の父)。今回、本書の「日本語版への序文」にそのことが触れられており、さらには敦賀を著者の息子さんと訪問されたことにも言及されていました。本書の内容には直接関係ありませんが、この点からも本書と著者に勝手な親近感を持って読んだ次第です。

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