論文の技法:意見を明確にする③待って熟成させる
論文のオリジナリティを高めるために、どのようにすれば意見を明確にすることができるかについて、前々回と前回は「対話」をキーワードに述べてきました。今回は、「熟成」の方法について述べたいと思います。
よく、作家の先生が小説を書いているドラマのシーンで、「あーでもない、こーでもない」と部屋をウロウロ歩き回りながら考えている、というのがあります。小説でもオリジナリティあるストーリーが大切なので、どうすればオリジナリティを高められるか作家の先生が考えているのでしょう。
論文も、最終的には自分で考えるプロセスが必要です。対話を重ねて自分の意見が少しずつ明確になっていったとしても、それらは他人の意見に対する自分の反応にすぎません。それらの1つ1つは確かに自分の意見を構成するものですが、それを集めただけでは筋が通った、まとまりのある意見にはなりません。
パズルに例えると、周囲の人の意見や読書に対する自分の反応は、パズルのパーツです。1つのまとまった作品にするには、できたパーツを順序良く並べる作業が必要になります。しかも、売られているパズルと違って全部のパーツが揃っていない場合もあります(普通は揃いません)。そこで、完成した作品とするためには、足りないパーツも新たに作らなければなりません。
何が足りないのか、何を足せばいいのかを自分で考え、それに合うパーツを作る必要があります。その際、パズルの完成形がほぼできているので、もはや周囲のコメントを集め直す必要はありません。2つの方法を紹介します。
1つ目は、書く前に論文の全体像をイメージしながら足りない部分を見つけて、それを埋めてから書き始めることです。頭の中でパズルを並べてみて、足りないと思ったところにパーツを作る作業といえます。2つ目の方法は、集まった材料だけでとにかく書き始めることです。書きながら足りない部分があった時に、その都度考えて書き足していきます。パズルを並べながら新しいパーツを作る作業と言えます。
これらの2つの方法からどちらを選ぶかは、書く人のタイプによります。以前述べた「固めてから書くか、書いてから固めるか」ということです。ちなみに、私は後者のタイプです。
いずれにしても、パズルを組み立てる作業や足りないパーツを作り出す作業は、自分の力で行う必要があります。そのため方法が「熟成」です。
言葉はカッコイイですが、要は「ひたすら待つ」だけです。ひらめきは、突然出てくるものです。無理矢理ひねり出そうとしてもなかなか出てきません。よく「アイデアが降りてくる」と言われますが、まさにそのとおりです。冒頭の作家の先生のように部屋をウロウロするよりも、日常生活の中でパッと浮かんでくるのを待った方が、生産的で効率的だと思います。
ただし、ひらめきを待つ準備は必要なので、2つ紹介します。1つ目は、何をひらめきたいのか朝のうちに確認しておくことです。頭の片隅に情報を入れておいた方が、ひらめきやすくなります。朝のうちに確認しておけば、日中にひらめく可能性が飛躍的に高まるでしょう。
2つ目は、リラックスして過ごすことです。かつて、アイデアが浮かびやすい場面として「馬上・枕上・厠上」の3つがあると言われました。現代で言えば「移動中・布団の中・トイレの中」です。こうした場面はメモを取りにくいですが、メモをしないとアイデアはすぐに忘れてしまいます。考える材料を頭に入れ、メモできるものを常に持っておくと良いでしょう(ここでもスマホは使えます)。
ビートルズの名曲「イエスタデイ」は、世界一カバーの多い曲として知られていますが、これも夢の中で出てきた歌を朝起きて忘れないうちに記録したと言われています(なので、最初は別の人の歌かと思っていたそうです。ちなみに、付けられた原題は「スクランブルエッグ」(朝食のメニューです)でした)。寝ていたら論文が出来たなんて、ラッキーですよね。「そこまでして論文のことを考えたくない」と思うかもしれませんが、ウンウンうなって何も出てこないよりも良いと思います。
自分の中で「熟成」してパズルを完成させる、ということを述べて、自分の意見を明確にするための技法の紹介を終えたいと思います。