コラム:働き方改革は地方創生に何をもたらすか
働き方改革に関連する新たな政策が、いよいよ中小企業にも本格的に導入される。すでに昨年4月から進められていた時間外労働の上限規制が、中小企業にも今年4月から適用される。また同一労働同一賃金の実施は今年4月から大企業に導入され、来年4月には中小企業にも適用される。
地方圏の多くは中小企業が地域経済を支えており、働き方改革がどのような影響を中小企業ひいては地域経済に与えるかが注目される。そこで、働き方改革と地方創生の関連を考えてみることにしたい。
働き方改革の軸となるのは、時間外労働の上限規制と同一労働同一賃金の実施であろう。前者は正規職員に、後者は非正規職員に関係する。改革の詳しい内容はここでは省略するが、いずれも企業の成長を促すものと考えられている。時間外労働を抑制しながら売上や利益を維持するには、企業は成長するしかない。同一労働同一賃金によって非正規職員の待遇が改善されれば人件費が増加することから、企業が売上や利益を維持するにはやはり成長するしかない。いわゆるブラック企業は、こうした対応ができないため、破綻を免れない。
このように、働き方改革は労働者にとっては労働環境と処遇の改善、企業にとっては成長の促進をもたらし、社会にとっては経済へのプラスの影響とブラック企業の淘汰が実現すると考えられている。めざていることは、基本的に正しいだろう。
ただし、実行は容易でない。とりわけ、中小企業の多くは正規職員の時間外労働や非正規職員の低賃金で成り立ってきたと考えられるからである。中小企業に対する働き方改革の導入は大企業よりも後にしたことで時間的猶予があるが、それで実行が容易になるとは思えない。
働き方改革に中小企業の多くが対応できず破綻してしまった場合には、地域経済への影響も出てくる。長期的には、雇用の受け皿が縮小して若年層の就職機会が失われるため、地方創生にもマイナスとなることが懸念される。働き方改革は、めざしているものが実現するかどうかで、特に地方の動向に大きな差をもたらすと考えられる。
ただし、他方で別の視点から明るい兆しもあると思われる。それは、働き方改革によってテレワークの導入が促進されることである。「週刊エコノミスト」2020年3月3日号では働き方改革の特集記事が掲載され、働き方改革は会社を作り直す覚悟が必要と主張している。その一環としてテレワークの促進を位置づけ、ビジネスチャンスとして展開する企業が紹介されている。現在はコロナウィルスの影響でテレワークを進めざるを得ない状況になっているが、テレワークによって大都市に立地する大企業に勤務するサラリーマンは通勤地獄から解放される。時間と体力を通勤に消費しなくて済む分、生産性も向上するだろう。
テレワークが進めば、どこに住んでいても自宅で仕事ができるため、必ずしも大都市に居住しなくてもよい。テレワークに必要なネット環境が整備されていれば、住みやすさだけで居住地を選択することができる。中小企業で成り立ってきた地方も、これからは大企業のサラリーマンが暮らす地域になる可能性も出てくるのではないか。
かつて地方圏が経済振興として進めてきたのは、企業誘致である。企業の立地により雇用機会が増え、これを求めて人口流入が促進(もしくは流出が抑制)されると考えられてきた。今でも企業誘致は重要な政策だが、今やすべての都道府県で有効求人倍率が1を超える状態となり、雇用機会は量的にはどこでも満たされている。それでも東京一極集中が止まらないのは、大企業が東京に集中していることが大きな理由の1つであろう(学生からもそうしたコメントが多い)。
テレワークが進めば、地方圏も居住地として選ばれる可能性が高まる。こうした期待はおそらく地方圏にも浸透しているが、すぐに訪れるものではないと考えられているのではないか。しかし、意外にも1ヵ月後に迫った働き方改革の本格的な実施が、それを早める可能性がある。テレワークの実施には、十分なネット環境と生活のしやすさを自ら整え、導入しようとする企業に対して積極的にアプローチすることが必要である。地方も働き方改革の進展を見据えて本格的な取り組みへとシフトすべきではないだろうか。