書籍紹介:木下斉「凡人のための地域再生入門」ダイヤモンド社

 副題に「地元がヤバい·····と思ったら読む」と書いてあるが、そうした地元は多い。だから、多くの人が読むものになるだろう。

 本書のユニークなところは、「小説」形式であること。最近、個人的には小説をほとんど読まないが、本書は小説としても素直に面白かった。「凡人」の代表とも言える主人公(瀬戸淳)が、地元に暮らす親の商店兼実家を処分するつもりだったのが、地元で新たな事業に乗り出している同級生(佐田隆二、ただし地元商店街のコミュニティには属さず、浮いた存在として描かれる)と再会し、実家を舞台に事業を展開することになったところから物語が展開していく。

 よく言われる「リーダー」や「よそ者・若者・馬鹿者」ではなく、むしろ地元出身の「凡人」が試行錯誤と複雑な人間関係の中で「行動」(=失敗を含めて悪戦苦闘)する姿は、これまでのまちづくりや地域再生の定番とは違ったアプローチである。しかし、著者は多くの地域に関わり、こうしたプロセスを体感してきたと思われ、小説形式とはいえ十分なリアリティがある。

 小説なのでネタバレするのは良くないから、ストーリーの紹介は最小限にして、ここから個人的な印象をいくつか述べたい。まず、この本は地方で起業したい人にもノウハウが詰まっていて有益である。地方には意外なビジネスチャンスがあるかもしれないことが伝わり、それをどう掘り起こしていくのかが学べる。また、地方で小さく事業をスタートする時に大切なことも紹介されている。思いだけでなく、冷静かつ数字を伴ったものでなければならないことも理解できる。もちろん、厳しい現実も待ち受けている。融資を渋る銀行、足を引っ張る周辺住民など、事業そのものが失敗するリスクもある中で、それ以外にも多くの障壁があることを覚悟しておかなければならない。裏を返せば、「才能よりも勇気が必要」ということである。

 次に、補助金や公務員がかなり辛辣に描かれている。著者は多くの本を出版しているが、このメッセージは一貫しているようである。本の帯にも「補助金が地方のガンなんや」というショッキングな言葉があり、本文では「そもそも補助金で成功事業を作ること自体が矛盾している」とまで書かれている。あらゆる政策分野(教育・福祉)、対象(企業・団体・個人)に補助金のメニューがある中で、本書はすべての補助金を否定するものではないと推察する。ただし、中心市街地活性化の名目で多くの地元商店街は補助金が投入されているのに、実際には活性化に結びついていない地域も多いように思われる。我々は、「補助金はどうあるべきなのか」の根本から考えなければならない。

 また、登場する公務員は国も地方も性格まで悪い人物である。本書には、主人公たちが公務員に巻き込まれて失敗するケースや公務員とのバトルが描かれている(あの歴史的大ヒットドラマ・小説を彷彿とさせる)。私自身が地元の公務員だったので、仕事を否定されているような感覚にもなってしまった(私の周りにはここまで悪い公務員はいなかったことを述べておきたい)。公務員の中にも地元の活性化に大きく関わっている事例はあるし、素晴らしい人格の公務員ももちろんいる。ただ、公務員は周囲からこのように思われていたのに気づかなかっただけで、もう少し敏感になるべきなのかもしれない。

 いずれにしても、本書は大変興味深い内容であった。特に、地域再生を大きく、難しく考えている人には、この本を読むと固定観念を打破することができるのではないか。

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