木曜コラム「公務員の仕事」第48回:行列のできる上司の部屋
なんだかラーメン屋さんみたいなタイトルになりましたが、今も一部の役所で今も見られる光景です。特に総務部長の部屋の前は数人が列をなして並んでいます。私が勤めていた役所の前に人気のラーメン屋さんがあって昼には行列ができているのですが、同じようなことが役所の中にもありました。
なぜこうしたことが起こるのかというと、決裁を得るためです。役所の意思決定プロセスでは、稟議書(りんぎしょ、起案文書とも呼ぶ)を使い、部下がさまざまなことを提案して上司の許可を受けます。提案の内容(重要性)に応じて決裁区分(どの階層の上司がOKを出せば最終決定となるか)が異なっていて、重要な内容であるほどより高い階層の上司から了承を得なければなりません。
いわゆるルーティンワークのようなものは、課長の決裁が得られれば最終決定となるので、すぐ近くで仕事をしている課長に稟議書を渡せばよいため行列にはなりません。しかし、より重要な提案に関しては課長の上司である部長のの決裁が必要になり、部長室に行って決裁を受けることになります。これも、すぐ近くに部長室があることが多いので、行列にはならないでしょう。
しかし、多額のお金がかかったり組織をまたがるような重要な提案については、財政担当部長(総務部長と呼ばれることが多い)や企画担当部長の決裁を受けることになります。これはどの部署の提案でも同じなので、例えば出先機関の職員が決裁を受ける場合には、本庁舎まで出向かなければなりません。市町村の職員であれば自動車で数分の距離ではありますが、それでも部長が不在であれば出直す必要がありますし、先客があれば待たなければなりません。そうしたことがなるべく起こらないように部長室の近くにいる職員に電話をして、部長が在室かどうかなど様子を聞いてから出かけることになりますが、運転している間に来客があっても分からないので、到着したら先客がいるようなこともあります。そうすると、同じような目的を持った職員が部長室の前で行列をなすということが起こるのです。
もちろん電子決裁を導入している自治体では、そうしたことは起こらないでしょう。電子決裁のシステムを使えば、稟議書を通信で提出することができるからです。しかし、重要な決定は職員の説明が必要な場合が多いですし、わざわざ部長から電話をかけてもらうのも気が引けるものです。もちろん導入には多額の整備費用がかかります。そのため、依然として電子決裁の導入に至らない自治体も多くあります。
市長や副市長の場合は立派な個室があり、外部からもう多くの来客があるため、待合スペースなどもあります。また、スケジュール管理もしっかりしています。しかし、部長の場合はそうした管理もう十分に出来ていないことから、部屋の前に行列ができることになります。職員がただ待っているだけでは、決して生産的ではありません。しかし、こうした時間を使って情報収集をしたり、何か成果を得ようとする職員もいるので、そうした姿勢で職員の資質に差が見えてくるのも興味深いところであります。