火曜コラム「オススメ書籍」第18回:大原瞠「公務員試験のカラクリ」光文社新書

 タイトルに「カラクリ」という言葉が入っているので、試験に合格するためのマル秘テクニックでも紹介されているのかと思って読んだのですが、そうではありませんでした。しかし、それ以上に有益な内容が盛り込まれているので、公務員試験を受験する学生に読むことをススメたいと思います。

 まず、そもそも多くの学生は「なぜ公務員試験はこれほど負担が大きいのか」「このような試験を受けても公務員の仕事に役立つのか」といった疑念が湧くでしょう。確かに、公務員の経験を振り返ると、確かに法律科目は仕事に直結するのですが、パズルのような判断推理や日本史の知識が仕事に直接結びつくことはなかったと思います。もちろん、事務処理を迅速かつ正確に進めていくためには、判断推理で問われるような思考力や判断力が必要だったかもしれません。しかし、そこまで強い結びつきはなかったように思います。

 著者は、このことについて、公務員試験の科目が非常に幅広いことに注目しています。したがって、これだけ広いと誰にでも得意科目や苦手科目があるものです。そこで、得意と苦手があるなかで総合的に一定のレベルを獲得できるかどうかが、公務員の資質として重視されていると述べています。これは私も目にウロコでした。

 つまり、公務員の仕事も幅広く、定期的な人事異動によって転職のような別分野の仕事を行わなければなりません。そのため、どんな分野の仕事であっても一定の成果をあげられるかどうかが公務員の資質として重要なのです。もちろん、苦手な仕事もあると思いますが、その場合はチームプレーによってカバーすることが可能です。誰かが自分をカバーしてくれるし、自分も誰かをカバーできる、こうした公務員の仕事の特徴が、試験の特徴にも表れていると考えられます。

 他にも、興味深いトピックがいくつか収録されています。大学に所属しながら公務員試験予備校でダブルスクールの構造や、公務員志望動機に関して注意すべき点などが、学生の目線からだけでなく教育機関や行政機関の事情からも書かれている点が面白かったです。

 最後に、公務員試験の将来について、とても踏み込んだ提言も書かれていました。例えば民間企業も公務員試験の採用に利用して民間の就職活動を並行して行いやすくすることなど、著者も「現実的には難しい」と認めるようないくつか挙げられていました。しかし、新型コロナウィルスへの対応など、公務員の働き方にも大きな変革が迫られている中で、こうした提言も以前ほど非現実的なものではなくなっているように思います。もちろん長い目で見た公務員試験のあり方は、まもなく試験本番を迎える受験生には関係がないかもしれません。しかし、前半で述べたように公務員の仕事の特徴があるからこそこのような試験形態になっていることを考えれば、これからの公務員の仕事のあり方とも関連してくる重要な問題になると思います。

 タイトルから受ける印象とはやや違っていましたが、良い意味で裏切られた本だと感じました。

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