論文の技法:ケアレスミスの確認

 論文ができてくると、すぐに提出したくなってしまうが、ここで立ち止まって確認すべきことがある。ケアレスミスがないかどうかである。

 ケアレスミスは文字通り注意不足による誤りであり、明確な減点対象とな。せっかく内容の素晴らしい論文であっても、ケアレスミスが多いと高得点にならない。書いた人も採点する人も「もったいない」と感じてしまう。合否に影響した場合は後悔しか残らない。あるいは、論文に対する姿勢も「しっかり確認もせず、適当に書いたのでは」と疑われてしまう。いずれにしても、ケアレスミスをして良いことは1つもない

 提出する前に、全体を通してケアレスミスがないかどうか確認しておきたい(最終確認は何度かすることをオススメする。流れがすっきりしているか、なども確認した方が良い。1回だけの確認で流れもケアレスミスも見ようとすると、かえって見落としてしまう可能性もある)。

 そこで、私がよく遭遇するケアレスミスの例を挙げておこう。そのまま、ケアレスミスのチェックリストである(順序は重要度を表すものではない)。


1 段落の初めを1文字下げていない→特にスマホに慣れすぎている世代は忘れがちである。
2 誤字・脱字
3 表記の不統一→漢字とひらがな(進む・すすむ)、送りがな(行う・行なう)、人名の敬称(さん・氏)、元号と西暦など、同じ言葉を論文の中で統一していないことがある。
4 数字の全角・半角、フォント形式や文字の大きさの不統一→ワープロで書く場合は要注意。不統一だと美しくなく、論文の印象が下がる。場合によっては「コピペ」の疑いもかけられる。
5 改行の幅、各行の左右余白の幅の不統一→やはり美しくないし、コピペの疑いもかけられる。
6 ですます調・である調の不統一→どちらかで統一する。論文の場合、である調の方が無難。
7 短縮語や流行語の乱用→バイト・就活・コスパ・エモいなど、話し言葉で使うの分には若々しいかもしれないが、書き言葉で使うと読み手が戸惑うこともある。短縮語はフルネームを使い、流行語は使わない方が無難(流行語が論文のテーマとなる場合は除く)。
8 好ましくない表現が使われている→どんどん・やっぱり・みたいな、など。これも書き言葉には向かない。
9 文章のつながりが悪い
〇なぜならば、~だからである。
✕なぜならば、~だと思う。
〇重要なのは、~人口が減っていることである。
✕重要なのは、~人口が減っている。
→特に、主語と述語の間に他の表現を挟むと、忘れてしまうことがある。
10 引用と意見が区別されていない→論文は、自分の考えを述べるもの。他人の意見も参考にして良いが、その区分が曖昧だと、どれが自分の意見が分からなくなる。また、他人の意見を自分の意見であるかのように偽装したのではないか(=コピペ)と疑われる可能性がある。
11 言葉のチョイスが不適切→例えば、高齢者数は「増加・減少」だが、高齢者の割合は「上昇・低下」となる。折れ線グラフを示して「高齢者数が上昇している」と書かれているものが意外と多いが、正しくは「高齢者数が増加している」。
12 最後が「期待したい」「見続けていきたい」で終わっている→読み手の印象が「意見に責任を持っていない」「他人事になっている」という消極的なものになるので、書かない方が良い(書いても減点されなるわけではないが)。
※言葉のチョイスや送りがな等については、「【改訂新版】朝日新聞の用語の手引」などが参考になる。

 チェック項目が多いので、かなり面倒と思われるかもしれない。実際に面倒だ。しかし、だからこそケアレスミスでの失点は合否に大きく影響するのである。確認はするに越したことはない。

 かつて、私も大きなミスをしたことがある。それは人名だ。お世話になった方の名前を初めての著書に書いたところ、出版されてから漢字を間違えていたことに気づいた。その方に著書を渡した時に平謝りしたことを思い出す。誤字・脱字の中でも見落としやすいところである。

 皆さんも、例えば年賀状の宛先の漢字が間違っていたら、決して気持ち良いものではないだろう(私も「井上武」とか「井上武士」などという年賀状を何度か受け取った)。以後、こうしたケアレスミスのチェックにはかなり時間をかけている。

 なお、ワープロで書く場合には、「校正」という便利な機能が付いている。上記のうち、誤字・脱字などは自動的にチェックしてくれるので活用したい。

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