論文の技法:結論のオリジナリティ
戸田山和久「新版 論文の教室-レポートから卒論まで」では、論文の柱として①問い②答え③論証の3つを挙げている。ここでは、その中でも重要な②答えの部分について述べたい。つまり、論文の結論である。
ズバリ、結論で大切なのは「オリジナリティ」である。誰かが既に主張していることをただ繰り返しても、目新しさはない。誰も言っていないことを初めて言うのが、論文に価値をもたらす。
なお、卒業論文や公務員試験の論文対策では、オリジナリティは高得点の条件ではあるが、手堅くまとめても合格ラインは得られるだろう。公務員試験で、どうしても論文で高得点が必要な人、例えば一次試験(選択式)は通過したものの得点が低く、二次試験(記述式)での挽回が必要な時には、オリジナリティを追求すると良い。
私も学生のレポートをたくさん読むが、珍しい意見は印象に残る。もちろん根拠がしっかりしていないと説得力に欠けて高得点にはならないが、印象に残ることは間違いない。説得力があれば、平均点を越える高得点が得られる。
ここで、オリジナリティを得るための方法について、私の大学院時代のエピソードを2つ紹介しよう。指導教官から言われた次の言葉に衝撃を受けた。「大物を叩け」。どの分野にもご意見番がいる。その人の言ったことは、多くの人から賛同を得る。つまり、大物の意見は、そのまま世間の一般的な結論になる。論文では、あえてそれを批判することで、珍しさ(オリジナリティ)を出せる。さらに、世間の注目(SNSなら炎上?)を集めるかもしれない。
もう1つは、「これまでの研究成果を越えることが必要だ」。やはり、大御所や有名な書籍の研究内容を上回ることを求められた。教科書のように使ってきた書籍は、自分にとって学びの対象だと思っていた。自分の論文に引用することはあっても、自分の論文がそれを超えるなんて…、ましてや研究を始めたばかりの段階で…、と動揺した。
しかし、今振り返ってみると、確かにその通りだと思った。私は優しい性格なので人を叩くことは好まないが、インパクトは大きいと思う。また、研究成果を越えていない論文は、確かにオリジナリティがない。ただ、越えると言っても「すべてにおいて」でなくても良い。「どこかで」「何かを」新しく加えれば良いのだ。あまり気負わなくても大丈夫である。
ちなみに、私の場合は大御所の書籍がやや古かったので、今やそうした時代ではないということを述べた。また、これまでの研究成果が触れていなかったことを指摘し、そこに切り込んでいくことも一法だ。あるいは、これまでの研究成果をおおよそ容認しつつ、「それは、〇〇の時だけである。✕✕の時には当てはまらない」など条件を付けることもありうるだろう。とにかく、小さなことでも「どこかで」「何かを」新しく加えればオリジナリティが出せる(大きなことを加えればインパクトが大きくなる)。
ここで、「大物」や「これまでの研究成果」は、文字数の多い論文では「先行研究」として紹介する必要がある。そして、自分と同じ意見をこれまで誰も述べたことがないことも強調する必要がある。これで、自分の意見がオリジナルなことを示すことができる。
なお、オリジナリティを創造するためには、日頃から反対意見を考える習慣があると良い。誰かの意見に、あえて反対意見(とその根拠)を述べてみる。それを、友人や家族に話してみると、説得力も確認できるだろう。学校で「ディベート大会」をしたことがあると思うが、これを個人で習慣化するのである。
最後に、井上ひさし「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」から、オリジナリティの重要性をズバリ述べた言葉を紹介しておこう。「作文の秘訣を一言でいえば、自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということだけなんですね」。