この日は財政課を体験するということだった。昨日の税務課とどう違うのか、また不安になってきたが、井上さんが分かりやすく教えてくれた。
井上「財政課は、お金の使い道を管理するのが仕事なんだ。昨日の税務課は収入を扱ったから、今日は支出の面だよね。その意味では逆だけど、お金に関する点は同じだし、税務課を経験したからこそ預かった税金を大切に使わなきゃいけない、って思えるよね」
私「確かにそうですね。せっかく納めた税金が変なことに使われていたら、住民も何のために納めたのか分からなくなってしまいますね。」
井上「財政課は、その税金の使い方を細かく決めるところだから、責任はとても大きいよ。1本100円もしないような鉛筆を買う時でも、1回で何億円をするような大きな工事の時でも、ムダがないか細かくチェックしているんだ。」
私「そんなにケタが違っても、どこにムダがあるのか分かるんですか?」
井上「もちろん1つ1つをチェックしているわけではないけれども、1年間の予算には枠(上限)があるから、枠に余裕がありすぎると使い方も緩くなってしまうから、そうならないようにしている。一方で、枠が小さすぎると途中で足りなくなってしまうから何もできなくなってしまう。小さすぎず、かといって大きすぎず、絶妙なバランスで予算の枠を決めているのが財政課の仕事なんだ。」
私「面白そうですね。なんだか家計のムダ使いもチェックできそうですね。」
井上「確かに、私生活にも役立つかもしれないね。だけど、予算はそれぞれの課がしっかり仕事をするために最も大切なものだから、結構気を使うよ。財政課の職員は予算の管理を担当する部署がそれぞれある。僕も以前、財政課にいたことがあるけれど、その時は教育委員会の予算を担当した。そうすると、教育委員会の課長補佐クラスの職員から頻繁に予算の相談を受ける。僕はまだまだ若手職員だったから、格上の課長補佐の職員と話をするのは緊張する。でも、相談を受けたら目上の人にも真剣に考えて答えなければならない。それが財政課の仕事なんだよ。」
私「それは気を使いますね。若手はプレッシャーも大きそうですね。」
井上「それだけじゃない。市役所のなかのお金を扱うので、市民とのコミュニケーションはまったくと言っていいほどない。外に出かけることもほとんどないから、ちょっと閉ざされた雰囲気なんだ。緊張感があるうえに閉鎖的だから、息も詰まっちゃうよね。もちろん、とても重要な仕事だからやりがいも大きいけれどね。」
私「大変なんですね。だんだん不安になってきました。」
井上「慣れれば大丈夫だよ。みんな明るいから。」
解説
財政課の最も重要な仕事は、予算の編成です。税金や補助金などの収入を適切に見積もり、それをどのようなサービスに配分するかを決める作業を行います。予算の配分は、まず担当の部署からの「要求」があります。これは、「○○ということをしたいので、予算を○○円付けてください」と、財政課に求めるのです。要求された金額は、担当の部署が細かく計算しています。例えば、お客さんを集めてイベントを開催するために、広報用のポスター10,000枚が50000円、当日のボランティアに支給するお茶150本で18,000円、イベントに呼ぶ講師の謝礼20,000円…、といった感じで費用を個別に計算し、その合計がトータルの要求額になります。
次に、要求に対して財政課は「査定」を行います。これは要求された予算が適切かどうかを判断するもので、例えば、「ポスターは10,000枚は少し多いですね、8,000枚に減らしてください。金額を40,000円になります」といった具合です。もちろんそうしたイベントそのものをする必要がないと判断されれば、要求全部が却下されることもあります。
私「でも、私は学生なので、親からの仕送りで生活していて、あまりムダ使いを考えたことがありません。大丈夫でしょうか?」
井上「もちろん大丈夫だよ。先輩がちゃんと指導してくれるし、誰でもある程度は慣れが必要だから。慣れれば、どの部分に着目すれば良いのか、分かってくると思うよ。」
井上「しかも、財政課は予算の編成を一手に引き受ける部署だから、市が行っている仕事を広く見渡すことができるんだ。いろいろな仕事をここにいるだけで知れるから、とても良い勉強にもなる。」
私「なるほど、分かりました。昨日も勉強になりましたけれど、今日も頑張りたいと思います。」
と言って、井上さんは財政課長と職員に私を紹介してくれた。早速、これから査定があるそうなので、同席させてもうらうことになった。今日も朝から激動の1日になりそうだ。
次回に続く…
→次回の話を読みたい方は、こちら「財政課で査定を体験-緊張感あふれる予算攻防の現場へ」