→前回の話「いよいよ税務課へ、初めての仕事体験!」に戻る

 →目次に戻る

 税務六法と要説住民税をさっと一通り読み、証明書の発行にも慣れてきた私は、少し周りを見る余裕も出てきた。税務課の人達はどんな雰囲気で仕事をしているんだろう、周りにはどんな課があるんだろう…

 税務課の職員は30名ほど、実は市役所の中で一番多いそうだ。なので、職員も若手からベテランまで、バラエティ豊かだ。仕事ぶりを見ていても、パソコンで書類を作っている人もいれば、電話で話している人、窓口に来た市民の応対をしている人、市役所の車で税務署との打ち合わせに行っている人など、それぞれバラバラに動いている。市役所の職員はチームワークで働いていると聞いたが、そんな雰囲気は感じられなかった。そこで、井上さんに聞いてみた。

 私「職員のみなさん忙しそうですね。でも、チームというよりも個人で動いているように見えますね。市役所の仕事はだいたいこんな感じですか?」

 井上「そうだね。それぞれ担当の仕事があるから、担当者は自分で考えて自分のペースで仕事しているんだ。もちろん、しっかり仕事をしているかは上司も見ているよ。何でも指示されないと動けないようでは、良い職員とは言えないからね。」

 私「仕事が多くて残業もあったりするんですか?」

 井上「季節によるかな。忙しい時期は残業することになる。担当する仕事の負担は公平にしているから残業の時間は同じくらいだけど、時期は同じとは限らない皆で力を合わせてする仕事もあるから、それは皆で残ることになる。あ、課によっては残業の多いところとそうでもないところはあるよ。税務課は中くらいかな。ちなみに、今は忙しい時期だから昨日は8時まで残ったよ。最後に帰った人は10時まで頑張っていたかな。」

 私「残業が多いと大変ですね」

 井上「確かに自分の時間が減るし体力的な負担もあるよね。でも、そういうものだし、忙しい時期だけだし、残業が終わる時期も最初から分かるんだ。だから、「この日まで頑張ろう」「忙しい時期が終わったら皆で打ち上げしよう」なんて言いながら乗り切っているよ。」

 私「そうなんですね。やっぱりチームワークが大切ですね。」

 残業について気になっていたので、聞くことができてホッとした。すると、井上さんから次の仕事を言われた。

 井上「それはそうと、ちょっと外に出てみようか。実は今、確定申告の受付を地区の公民館でしているんだ。あの机、キレイに片付いているでしょう?朝から職員が外に出ているんだ。せっかくだから、見学してみよう。」

 私「外に出るんですか。楽しそうですね。分かりました。」

 市役所の車を使う手続きを済ませ、課長に報告してから、公民館に連れて行ってもらった。しばらく席を離れる時は、上司や先輩に報告しておいた方が良い。

 外に出ると、少し気分転換になる。今日は快晴で気持ちが良い。と思っているのもつかの間、10分ほどで公民館に到着した。確定申告の会場は1階の大きなホールだった。高齢者も多く来るので入口の近いところがベストだ、ということらしい。なるほど、細かいところにも気を使っている。

 ホールは多くの市民でごった返していた。受付している職員は3人だったが、市民が5人ほど待っている。待ってもらうのは申し訳ない気もするが、税金のことだから丁寧に、正確に対応しなければならない。確定申告は税務署でも受け付けているが、やっぱり市役所の方が行きやすいのだろう。

 私は井上さんに連れられて、受付の1つに同席させてもらった、今回も市民の了解をもらってからである。

 確定申告とは、1年間の収入を合計して所得税の計算を行うことである。所得税は毎月の給料から差し引かれるが、その金額は概算にすぎない。1年間の収入が確定した後に納めるべき税金を計算し、払いすぎた分が戻ってきたり、足りない分を追加で支払ったりする。それを計算する手続きが確定申告である。

 所得税は国の税金なので、確定申告も本来は国の仕事だ。しかし市町村は確定申告に基づいて住民税の課税を行なっている。そこで、確定申告の時期には市役所の職員も対応に当たるのである。

 職員と市民の会話を聞いていると、給料や年金の明細など収入を計算するための書類や、控除のための扶養状況、医療費や住宅ローンの状況などについての書類を出してもらい、確定申告の書類を作成していた。

 隣の受付では、市民がちょっと悲しそうな顔をしていた。どうやら必要な書類を家に忘れてしまったらしい。正確に、税金を計算するためには、その書類がどうしても必要なのでいったん家に戻ってもらい、後日書類を持って来てもらうことになったようだった。
また別の受付では、市民がとてもにこやかな顔をしていた。思った以上に税金が安く済み、払いすぎた税がたくさん戻ってくるらしい。対応した職員が一緒に喜んでくれたのも、嬉しかったのだろうか、「今日は家で焼肉パーティーだ!」と言ったことまで聞こえてきた。職員もそれを聞いて嬉しそうにしていた。

 ここで井上さんが説明してくれた。

 井上「住民は少しでも税金が安く済むならそうしてほしいと思って、ここに来ているんだ。もちろん、国や自治体はたくさん税金が入った方が嬉しいんだけれど、税金は誰にでも公平でなければいけないから、安く済む方法があるのならちゃんと伝え説明しなければいけないよね。」

 「住民から尋ねられることもたくさんあるんだ。それにも正確に答えないと「あの時こう言ったじゃないですか」って言われることもあるから、気をつけないといけないよね。職員が税務六法を読むのも、そのためなんだよ。聞かれたことを正確に理解し、誠意を持って説明することが必要だ。特に税金を扱う税務課はね。」

 「確定申告ができたみたいだよ。」

 書類については詳しく見ることは許されなかったが、どうやら税金は50万円を超えているらしい。税金ってこんなに高いのかと驚いたが、もっと驚いたのは、住民がニコニコしていることであった。税金は誰にでも公平だから、どの職員が対応しても50万円になるのだが、だからこそ受付をする職員が明るく対応することで住民も気持ちよく納税できる、ということなのだろう。

 義務であるとはいえ、住民が前向きに納税してもらえるようにすること、そして、公務員は貴重な税金を大切に使わなければならないということを感じた。

 1時間ほど公民館に滞在し、再び車に乗って市役所に戻った。

 次回に続く…

 →次回の話を読みたい方は、こちら「公務員にとって税金は「市民から〇〇るもの」、では、「〇」には何が入るでしょう?」

 →前回の話に戻りたい方は、こちら「いよいよ税務課へ、初めての仕事体験!」

 →目次を見たい方は、こちら