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 観光振興課の体験も午後に入った。今日は最終日で、3時からインターンシップの学生が集まって「まとめ」を行うことになっているから、課の仕事が体験できるのも最終盤だ。

 午後は、課の職員で企画検討会議をするという。職員全員が会議室に移動した(アルバイトの職員は電話応対のため課に残った)。どうやら、午前中に訪問した旅行代理店で言われたことを受けて、全員でツアーの企画を見直すようだ。対応が素早い。

 会議室で課長が全員に話した。

 観光振興課長「午前中に旅行代理店を訪問して、ツアーの説明をしてきました。そこで言われたことは、〇〇ということでした。そこで、〇〇についてどう対応するか。まず、担当の考えを聞いて、それから皆の意見を聞きたい

 職員A(ツアー担当者)「私は昨年、家族で旅行に出かけたのですが、そこではこんな工夫がされていました。これをツアーに取り入れてみると面白いのではないでしょうか?」

 職員B「その旅行代理店のサイトを見ると、学生ツアーの面白い企画が紹介されていました。学生向けにツアーの魅力をアピールすれば、旅行代理店にもメリットがあると思います」

 職員C「この時期は隣の県で大型のイベントがあるので、競合しますよね。時期を少しずらすか、連携した内容にして、こちらにも来てもらう方法もあると思います」

 その後も職員からいろいろなアイデアや意見が出され、1時間ほどたったところで課長が切り出した。

 観光振興課長「皆の意見がとても参考になった。ありがとう。後は担当者が改善案としてまとめてほしい。明後日にまた旅行代理店に行く予定だから、明日の午後に案を持ってきてほしい。それでまた相談しよう。よろしく頼んだよ」

 職員A(担当)「分かりました。よろしくお願いします」

 1時間という短い時間だったが、密度の濃い議論だった。課に戻り、会議に同席していた井上さんに話しかけた。

 私「皆さんいろいろなアイデアとか意見を持っていますね。尊敬します。私も大学でグループディスカッションとかしますけど、なかなか良い考えが浮かばなくて…」

 井上「皆の意見を聞いてて分かったと思うけれど、プライベートでの旅行経験とか、情報収集もたくさんしているからね。調べるのは仕事なので当然だけれど、プライベートの旅行まで仕事になっちゃうから、仕事から離れられなくて大変だ(笑)」

 私「確かに、観光振興課の皆さんは出張も多そうな印象なので、仕事で観光に行けていいなぁ、なんて思っていたのですが、逆なんですね。プライベートの観光まで仕事になっちゃうなんて、休まらないですね」

 井上「まあ、仕事ってそんなものだよ。課を離れれば、思いっきり観光でリフレッシュできるから。その時は、ここで得た経験を活かせるよ。僕も財政課では査定で大変だったけれど、値切り方が上手になったので自動車を購入した時に役立ったよ(笑)。プライベートも仕事になるけど、仕事もプライベートに活かせる。公務員ってそんなものだと思うよ」

 私「それだけ生活に密着している、っていうことですね。分かりました!ありがとうございます。あの、もう1つ良いですか?」

 井上「いいよ、最後だからどんどん聞いて」

 私「課長さんは職員の皆さんからいろいろ意見を聞いておられましたけれど、部下の皆さんも課長の指示で仕事をしているだけではないんですね」

 井上「そりゃあそうだよ。なんでそう思うの?」

 私「公務員は法令や上司の指示に従う義務がある、って大学の授業で聞いたので、上司が全部決めているのかと思っていました」

 井上「あはは、そんなことはないよ。やっぱり若い世代の意見も大切だからね。特に観光はそうでしょ?僕が行きたい所と君が行きたい所はたぶん違うと思うよ。それが普通だから、いろいろなニーズに触れておかないと、正しい判断ができなくなるからね。もちろん、最終的に決めるのは課長だけれど、全部課長が決めると、かえって良くないこともあるから。公務員の仕事はチームワークなんだよ」

 私「そうなんですね。だから課の職員の皆さんも自分で調べたり経験して、仕事に活かそうとしているんですね。自分の意見が通るのは、やりがいにもなりますし」

 井上「そうだよ。だから、大学で学ぶことやふだんの生活で、公務員になったら活かせそうなことを探してみるといいよ。いつも気が抜けないのは疲れてしまうけれど、頭の片隅にでもそんな意識を持っていると、ふとした時に良いアイデアが浮かぶと思うよ。今からできることだし、大学の勉強にも有効だと思うから、やってみて」

 私「ありがとうございます。大学生活も残り少ないですが、インターンシップで得た経験を活かして充実した日を過ごしたいと思います」

 最後に、観光振興課長に挨拶した。

 私「今日はいろいろなところに連れて行っていただき、ありがとうございます。貴重な経験ができました」

 観光振興課長「いい経験になって良かったよ。一緒に仕事できると嬉しいね」

 私「ぜひ、お願いします!でも、昨日も女性活躍課で同じことを課長さんに言ってしまいました(笑)」

 観光振興課長「あはは(笑)。でも、それが公務員だから。どの部署に行くか分からないし、定期的に異動するからいろいろな課長と仕事をするから、どの部署にもやりがいがあって、いろいろな課長さんと仕事をしたいと思えるのなら、公務員に向いている証拠だよ。僕も観光振興課にいつまでもいる訳じゃないからね(笑)」

 私「あっ、そうなんですね。変なことを言ってしまったと思ったんですが、実は公務員に向いているって言ってくださって、ますます嬉しくなりました。ありがとうございます」

 観光振興課長「じゃあ、待ってるよ」

 私「ありがとうございます!失礼します」

 課の皆さんにも挨拶して、観光振興課の体験は終わった。あとは、最後の集まりだ。もう一息、頑張ろう。

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